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la souvenir

Posted on 2022.06.30

COZY

いつもより激しく長い梅雨でした。
タイルは滑りやすく、白壁はみるみる茶色、外階段には苔が生え、
鉢植えに見たことのないきのこがニョッキリ!
除湿機に貯まる水の量半端なく、新月も満月も感じることなく夜空はいつもどんより。
こんなに降ってしまったら、
どこかよその場所が枯れてしまはないかと心配した雨の日々。
しかし、しかし、降り疲れてしまった雨はついによその場所へと移動し、
太陽へバトンタッチ。
みるみる広がる紺碧の空、
大興奮のお天道さま。
今年の夏は厳しい熱さになりそうだ。そんな予感。

沖縄の梅雨が上がるころ、東京はまだ涼しい風が吹いていた。
南青山の街に居た。
一時期とは打って変わってどこも混雑、人の波。
シャッターを降ろしたまま、閉まったお店も時折見かけたが
この時を待っていたかのように路面はキラキラ、
店先はワクワク、人々はウキウキしている。
我慢から解き放された人波に乗るように、
あっちのお店、こっちのお店と探索散策。
ちょっと興奮気味の自分を知りながら、だんだん、なにやら、居心地悪い。
オシャレなセレクトショップの大きな鏡に映る自分の姿を見て気づいた!
この街を楽しむ大勢の人たちの中で、わたしが一番年上なのかも!
ほぼ同様なファッショントレンド。生まれはきっと80年代以降。
髪型も、服の色も、シルエットも、そして年齢も、
完全に浮いてしまっている、わたし・・・。
若者の街に紛れ込んでいる、わたし・・・。

その夜の宴席、生まれ年80年代以前。
若者はこぞって街に繰り出しているけど、
年配の人たちはまだ注意を払っている、
街が若者に支配されているわけではなく、
高齢者は外出を遠慮しているのですよ、と聞かされる。
 
年配! それって何歳ぐらい? え! 高齢者? 
ちょっと待って、シニア、そう、シニアと言って!そのほうが聞こえがいいよ、そのほうが!
都会は街によって全然ちがうから。
年寄りが元気に闊歩する街もあるから。そんな会話。
興奮と意気消沈の繰り返し。
 
大都会の刺激を受け、わが島に戻る。
湿度がまだ残るコバルトの島に降り立つ。
じいちゃんも、ばあちゃんも、孫も若者も、
兵隊さんも、ナイチャーもみんな笑顔いっぱいでお迎え。
到着ロビーの色彩は沖縄独特。頬に受ける南の風が心地よい。
コザに着く。店に向かう。
四世代の大家族がみんなで発表会を観に来たような感じ。
一瞬のうちにその風景に溶け込む自分。
ここでは年齢なんか関係ない。ああ、ありがとう。
 
わが家に戻る。
1960年代に父が建てた外人住宅。
丘陵から海を眺めることができる立地を生かした庭のある白い平屋の建物。
築50年を超えてもモダンで、写真集や雑誌にも時折登場する。
父の青春はまさにミッドセンチュリー。
彼が造ってきた建物や店にはあの時代のセンスが宿っている。
米軍基地で働きながら感じ取ってきた感覚を、沖縄に植え育ててきた。
琉球政府時代に活躍した外国人経営者数人が
父の建てた外人住宅に住んでいたと伝わる。
そんな縁で1986年、彼はプラザハウス四代目の社長となった。
 
仕事場にいくと 90を超える父がデスクに座り新聞を広げている。
ダンディなシニアである。
おかげさまで創業68年。
彼が求めた心地よさを、私たちが継ぎ、街へ伝える幸せ。