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Posted on 2021.05.04

蛸壺の中のシチュー / BLUE ZONE LIFE LESSON

BLUE ZONE OKINAWA
健やかに、生きがいを持ち長寿を喜び讃える人々が暮らす世界5つのゾーン、“BLUE ZONE”。
このページでは、“BLUE ZONE”のスピリッツを彷彿とさせる
県内外、国内外のFOODに関わるステキな出会いを綴ります。

ESTOFAT DE POP I PATATA
蛸壺の中のシチュー

 
目を閉じて、耳をすますと、沖縄とスペインには小波のしぶきと心地よく顔を撫でる潮風がある。毎朝肩に槍を担ぎ、カゴを腰から下げた漁師がタコ釣りを楽しみに海岸線を歩く姿を思い浮かべる。サンゴ礁に囲われたリゾート地として知られている恩納村だが、県内ではタコの水揚げ量上位なのだ。恩納村海岸沿いのタコの巣を熟知し、数十年もサンゴ礁に生息する島タコ釣りをするベテラン漁師が恩納村にいる。沖縄ではタコは刺身にして食べるのが一般的だが、スペインのカタルーニャ地域ではタコをジャガイモと煮込んだシチュー、Estofat de pop i patata(エストファット・デ・ポップ・イ・パタータ)が愛されている。タコは見た目から”悪魔の化身”と怖がられ、殆どの欧州地域では好まれないがカタルーニャを含め地中海地域では古来から食されている。

このシチューの特徴はパプリカ(唐辛子)を使うこと。見た目も赭(そほ)色で沖縄の赤土を思い出させてくれる。カタルーニャ地域で好まれているパプリカは、スペインが新大陸を発見しメキシコから唐辛子、ペルーからジャガイモ等を持ち帰ったことで庶民にも広がった新しい調味料。またカタルーニャ料理の豊かさには、この地域に海も山もあることから、食材の多様性があり、固有の言語と文化も保有し、さらに8世紀以降にカタルーニャの一部を支配したムーア人が砂糖(サトウキビ)、香辛料、ナス、アーティチョーク、コメ、パスタなどをもたらし、当時交易があった地中海、中近東、アフリカ諸国の食文化が交わる。その為カタルーニャ料理は今となっては世界中の人々がその味を求めバルセロナなどを目指す。

今回のEstofat de pop i patataは山の幸・ジャガイモ、海の幸・タコを煮込むシンプルな料理だが、隠し味として古代調味料ガルムを加えた。それは古代ギリシャ時代から魚の内臓を塩漬けし、発酵させた魚醤で旨味成分のグルタミン酸が豊富。現在の地中海に住む人々はガルムを頻繁に使わなくなったが、近年料理人などがガルムの旨味を再発見し、古代のレシピで再生産している。魚の旨味を好む日本人は馴染みやすい地中海の調味料かもしれない。食べる前に、少量のガルムをシチューにかけ、タバスコの辛味も加えるとなんとも言えない奥深さが引き立ち、ジャガイモの土の香りとタコの磯の香りが絶妙な発酵調味料によりマリアージュされる。

もちろんコトコトと時間をかけたいが、時短を優先し半分火で煮込んだ後、炊飯器に入れて文明の力を借りる。すると母の愛が炊飯器に濃縮されてタマネギの甘みと、パプリカの苦味が引き立ち、ジャガイモもトロトロ。肝心なタコは葡萄色の吸盤がホロホロに炊き上がり、口に入れるととろける。海、山、新大陸、旧大陸の旨味、知恵、歴史が鍋の中で溶けあい、そこにあるのは永遠と変わらない漁村の味が赭(そほ)色のシチューとなって、てかり輝く。どの時代も食べるという事は、時間をかけ、愛情を注ぎ、家族に食べてもらいたい思いは変わらない。愛する人を思いながら食に携わる心は、漁師も母も思いは同じだ。

[ レシピ 4人前 ]
玉ねぎ3個、にんにく3片、トマト2個、メイクイーンじゃがいも4個、タコ2本、
各適量:パプリカパウダー、オリーブオイル、塩、ローリエ5枚、トマトソース(700g)、
ガルム、タバスコ、水
1. 玉ねぎみじん切り。にんにく、トマトをざっくり刻む。じゃがいも大きめ乱切り、タコは大きめにカット。
2. 鍋にオリーブオイルを十分ひく。玉ねぎ、にんにく、トマトを入れ炒め、塩をふる。パプリカを少しずつ全体がオレンジ色になるまで、ふりかけ炒める。ローリエの葉を入れる。
3. じゃがいも、タコを入れる。
4. トマトソースを入れ、水を適量たす。
5. ガルムを好みでスプーン1~2入れる。
6. 鍋から下ろして炊飯器に入れ、お米を炊く要領で炊く。
7. 炊きあがりでも美味しいが、できれば保温にして翌日食べるのがさらに美味。
8. 食べるときはタバスコとガルムを好みでふりかける。
クスクスを添えてより地中海気分!

オーガニック パッサータ ルスティカ
700g ¥540 MONTEBELLO/イタリア
エクストラヴァージン オリーブオイル230g ¥724 SOLDELLIMARI/チリ
地中海シーソルト
500g ¥324 DELTASAL/スペイン

スモーキーな奥深い辛味メキシコのチポットレ入りホットソース!
オリジナルデスソース150mL ¥778 BLAIRS/アメリカ
エストレマドゥーラ産スイートパプリカの苦味と甘味広がる大人のスパイス。
燻製パプリカパウダー75g ¥486 CARMENCITA/スペイン
古代地中海調味料。国産イワシを塩蔵熟成させ日本で再現した魚醤。
アッラ・ガルム
100mL ¥1,026 MONTEBELLO

 

ガストロノミスト(農食文化・環境社会学研究家)
伊江 玲美
1976年東京生まれ、ルーツは沖縄、幼少期をアメリカで過ごす。2005年にスタンフォード大学にて持続可能な発展途上地域開発と起業論を研究。帰国後、一次産業と食文化を統合したコンサルティング会社を起業。2012年にブータン王国のGNH Center(国民幸福度を考えるセンター)の日本大使に任命される。2015年、イタリア食科学大学にて修士号を取得し、Slow Food 国際本部アジア局日本ディレクターに就任。活動は日本の食文化、食の叡智の発信、農業・漁業継承の促進、また恩納村を中心にフードロス食材を活用した無料弁当を子供達へ提供。