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姑の舌

姑の舌

確かに食が細くなったようだ。
ご飯を小さなお茶碗によそっても少しずつ残してしまう。
歳をとって痩せるとフージンネーラン(格好悪い)と本人は嘆く。
確かにぽっちゃりとふくよかな方が若々しく見える。
大きな手術をしたあとだから仕方ないよね、と慰めながらも
義理の母の体重が減るのは心痛い。
何か食べたいものある?と聞いても
なんだか何も美味しくないの、と応える。
食に制限はない、なんでも食べていいのにこれは寂しい。
夫婦二人だった頃の食卓はまずはお酒が中心。
スペインだ、ポルトガルだ、オーガニックだ、プレミアムだと
理由をつけてはワインを選び、
海外出張で知った新しい食材や味覚を試しては酒の肴にし
時間があるとフードコーナーに通って新商品を嬉々として手にする。
食わず嫌い、貧乏性、昔の人間だから、と食に欲がない義母に
こちらの食生活を合わすのも少し違うと思ったある晩、
白いご飯をうっかり炊き忘れ、どうしたものかと思いつつ、
グリッシーニに生ハムをクルクル巻いて
お母さん、今日はご飯がわりにこれ食べよう!と差し出した。
するとお母さん、
目をクルクルしながら、なんて美味しい!と大喜び。
あなたたちはいつもこんな美味しいのを食べていたの?
とやっかみまで言うじゃない!
ちょっとワインもいかが?
ポリフェノールたっぷり、少しなら身体にいいし、
きっとぐっすり眠れるかも・・・・
グラスに恐る恐る口を近づけ一口飲んだ義母は
これまで見たこともない笑顔を見せて喜び、またグラスを近づける。
   
良かった、良かった! 
なんて幸せなんでしょう!
考えて見れば長いこと基地で働いていた義母、
演歌よりジャズ、ラフテーよりステーキ、
ジーンズ履きこなすモダンなレディ。
若かりし頃のチャレンジ精神を思い出してもらおう、
そんなひらめきの夜。
食わず嫌いの呪文が溶けると
食する世界も広がりおしゃべりも弾み
愛らしいふっくらも、きっといつのまにか取り戻せる。
宗像堂のライ麦入りカンパーニュにアボガドのオープンサンド、
1400円もするリングエ・ディ・スオーチェラ・ローズマリーは
もはや彼女の大好物。苦手と言っていたレバーも
KOBAのレバーペースト試して払拭された。
ハーブがいっぱいで独特で辛味があるから
少し難しいかな?と覚悟してトライした
BALI NOON BALI MOON (バリ料理レストラン)の
モリンガスープも、テンペカレーも
身体がホカホカ調子よくなるから時たま食べたくなるね、と
嬉しいことを言ってくれる。
 
ところで。前述のややこしい名前のリングエ・ディ・スオーチェラ。
イタリア語で〝姑の舌〟という意味だとか。
香ばしくて美味しい薄焼のパンは
食べるほど好きになる味わい。
喋り出したらと止まらないイタリアのマンマの舌のよう。
愛情とユーモア溢れるネーミングです。グラッチェ。
 
 

 

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